フィリピン モンティルンパ市における貧困地域住民のための保健衛生指導
郵政省からの助成を受け、フィリピンのモルティルンパ市における事業が2004年6月に完了いたしましたので、報告いたします。
プロジェクト概要
(1)対象地域
メトロマニラ州モンティルンパ市の8地区
(アラバン地区、バヤナン地区、プリ地区、クパン地区、ポブラシオン地区、プンタン地区、スカト地区、
ツナサン地区)
(2)プロジェクト実施期間
2003年7月~2004年6月
(3)助成元
日本郵政公社
(4)プロジェクト目標
本プロジェクトの目標は第一に、モンティルンパ市の対象地域住民が現地
にある人的・物的資源を最大限活用できる環境づくりである。
そして第二に、セルフケア(健康学習・健康増進)を基礎として、家庭・地域・
医療関係者間の連帯を強めることである。
それらによって、持続可能な保健・医療を行う体制が整備されることを
本プロジェクトの最終目標とした。
(5)活動内容
1.地区保健員の新規育成
2.地区保健員による巡回
3.地区保健員と保健所との連携
4.栄養失調児を対象とした給食サービス
5.母親を対象とした栄養指導
6.母子を対象とした衛生指導
7.保健データの記録
8.医科・歯科無料検診と治療
プロジェクト成果
本プロジェクトの成果はコミュニティ保健員の研修、育成などを通じて、コミュニティ対象地区住民80000人に対して利益を与えた。 詳しい成果は以下の通りである。
(成果1)
稼動コミュニティ保健員78名が結核、子宮ガンなどの早期発見及び処置、安全で確実な家族計画等に関する知識と技術を身につけた。
(成果2)
血液型、結核、家族計画等に関する対象地域のデータが整った。
(成果3)
象地域の結核が抑制する条件整備がなされた。
(成果4)
地域の保健に資する知識と技術、心構えを身につけたコミュニティ保健員60名が新たに育成された。
(成果5)
新規コミュニティ保健員60名が、研修によって修得した基礎医療や衛生知識を生かし、家族や近所の住民のために簡単な第一次的健康管理(プライマリーヘルスケアー)の中核となり、地区住民が、日常的で軽い病気については、家庭において適切な治療を行うことができるようになった。
(成果6)
コミュニティ保健員が、保健所と連絡を保つことで、保健所におけるサービスが向上した。
プロジェクトの評価
(1)効率性
投入した日本人専門家および現地専門家は、それぞれ2名と7名であった。2003年の上半期に域内でSARSが発生し、この時期の日本人専門家の派遣を見合わせたため、日本人専門家の投入日数は計画の約半分となった。これをカバーするために、現地専門家を投入することで予定していた活動内容はすべて消化した。過去の類似プロジェクトと比較しても量・質ともに適正範囲であったと考える。
地区保健員の育成では、過去5年の経験を踏まえ、よりポイントを押さえた指導が行われることで、保健員の理解力が向上した。
給食では、献立をより精査して決定することで、前年度よりも食材の購入量を減らす一方で、平均体重を超える児童数の割合をキープすることに成功した。
(2)目標達成度
1. 保健員の養成、保健員による住民への健康管理の普及、保健員による保健所のサービス向上が達成さ
れ、これにより「地区住民の保健体制」が改善された。
現在までに養成された保健員をあわせると、地区住民約10万人のうち5万6千人に一定以上のサービスを
提供できる体制が整った。
2. 栄養失調児が栄養状態を改善し、母親が栄養に関する知識と実践的な接取法を習得することで「地区児
童の健康状態」が改善された。対象地区の栄養失調児童、推計1000名のうち50%弱が栄養失調状態か
ら抜け出せたことになる。
(3)インパクト
1. プロジェクトの影響により、地区住民が保健所を利用する機会が増加した。
また、本プロジェクトのトレーニングが信頼を得るようになり、保健所との結びつきがより強固なものになっ
た。
2. モンティルンパ市の特に都市部において、栄養失調の危険性が社会的に認識されるようになり、
母親のプログラムへの積極的な参加が見られるようになった。また、プロジェクトとの因果関係を数値で証
明できないものの、児童の学校出席率が目に見えて改善した。
3. SARSに対する不安は、モンティルンパ市の住民にも一時的に広がった。しかし、プロジェクトにより、継続
的に手洗いやうがいをすることにより、感染病原菌の大半から身を守ることができることを人々が知り、必
要以上の不安感を取り除くきっかけとなった。
(4)妥当性
貧困地区住民の健康状態の改善および保健体制の整備は、貧困解消の柱の1つであり、貧困解消を最優先課題とするフィリピンにおいて、本事業の妥当性は高いといえる。
(5)自立発展度
1. 本プロジェクトの継続には地方公共団体の協力が不可欠であり、その点で、地区保健員のトレーニング参
加者は充分に支援され、保健所からの信頼も大きい。また、知識と技術を向上させた者は、現時点で9割
以上が対象地区に留まっている。これは、自立発展性のプラス要因である。
2. 食材や栄養補助剤の調達に関し、地域の協力が得られるため、本プロジェクトの栄養プログラムの継続
が可能になる。また、栄養指導を受けた母親によってプロジェクト非参加者にも、知識や技術が共有され
ることも、自立発展し絵を支えている。
3. 地区保健員との協力によって、クリニックの負担は減少した。