サーディン事業

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活動実績

フィリピン サーディン加工運営管理・資源管理研修プロジェクト(2006年)

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タール湖漁民を対象としたサーディン加工運営管理          および資源管理研修プロジェクト

日本NGO支援無償資金協力贈与計画に基づく本プロジェクトが、 平成19年2月13日をもって完了致しましたので、報告致します。

プロジェクトの実施背景と成果要約

フィリピン・ルソン島南部のバタンガス州バレテは、同国内有数の大きさを誇るタール湖の畔にある。当地の漁民の多くは、湖から獲れる魚を売ることで日々の糧を得ているが、時季によって漁獲量は安定せず、大半の世帯が貧困ライン以下の生活を余儀なくされている。本協会は、現地で長年パートナーを組んで開発事業を展開してきたDAWVおよびバレテ家族農業学校と共に、タール湖固有主であるタウィルスというニシンの一種をオイルサーディン(油漬け)にし、特産品として市場に出荷するプロジェクトを開始した。    
2003年からパイロット事業を展開、製品の市場価値と、プロジェクトによる対象漁民の生計向上その他の効果を確認した。今回の事業では、専用の作業施設をバレテ家族農業学校内に設立し、運営・品質管理・環境保護など各種セミナーを実施した。これにより、製品の安定した製造・出荷と、自立的な運営に向けた動きが緒に就いた。

プロジェクト概要

①目標
環境と両立した効率の高いサーディン事業が安定的に運営される

②成果
1. 新たに設立した専用作業施設が本格的に稼動し始めた。
2. プロジェクト参加者が運営管理、資源管理に関するトレーニングを受けた。
3. コスト意識の高い事業運営体制が確立された。

③投入
日本人:日本人スタッフ
現地人:E. Sistcar, L. Ong, C. Guzman, M. Bermudez, A. Mamuyac, M. Vivar, M. Bumanglag(以上、専門家)
現地人スタッフ資機材:作業所(魚加工専用施設)、設備・備品

④活動
・魚加工のための専用作業施設の設立
・プロジェクト参加者への継続した教育、トレーニング、知識向上セミナートレーニング内容は経営管理・品質
 管理・環境保全など
・コスト削減のための検討とセミナー実施

⑤場所バタンガス.JPG
フィリピン共和国 バタンガス州 バレテ市

⑥期間
2006年2月14日~2007年2月13日

⑦対象
ターゲットグループ:プロジェクト参加者320人
直接的受益者:プロジェクト参加者の家族約1600人
間接的受益者:タール湖畔14自治体住民約10万人

⑧協力
DAWV(女性ボランティア振興協会)バレテ家族農業学校

⑨資金
6,687,647円 (日本NGO支援無償資金精算額)

プロジェクト概要についての説明

① プロジェクト目標
本プロジェクトの目標は、「環境と両立した効率の高いサーディン事業が安定的に運営される」ことである。この目標は現地漁民のニーズにマッチしており、さらに持続性・発展性の面から見ても高い可能性を持つものである。

② 成果
上記目標に向け、本プロジェクトにおいて達成された成果を以下にまとめる。


◆ 新たに設立した専用作業施設が本格的に稼動し始めた。バレテ家族農業学校の敷地内に、オイルサー
  ディン製造のための専用作業施設を建設。バレテ州の認可を受けた後、本格的なタウィリスのオイルサ
  ーディンの生産に乗り出した。
◆ プロジェクト参加者が運営管理、資源管理に関するトレーニングを受けた。生産の中核となるサーディン
  の加工技術の習得に加え、運営管理、品質管理、資源管理といった、事業をプロジェクト参加者が自立
  的に運営するためのトレーニングを実施。320人がこうしたトレーニングを受け、生計手段と結び付けて自
  然環境・生態系を考えるようになり、環境保護意識の向上にも役立った。
◆ コスト意識の高い事業運営体制が確立された。


④ 活動
建設を許可されたが、作業所建設予定地が、フィリピン環境天然資源省の指定する保護区域内であったことから、交渉に時間がかかり、作業所建設が遅れた。それ以外の活動は、計画通り進められた。


⑤ 期間
本プロジェクトの実施期間は、2006年2月14日から2007年2月13日までの1年間であった。


⑥ 対象
ターゲットグループは、セミナーやトレーニングの受講者など320人である。彼らがプロジェクトに参加することによってその家族約1600人が直接的に利益を受け、間接的にはタール湖畔14自治体の住民、約10万人が裨益する。


⑦ 実施・協力体制
GVSと、カウンターパートであるDAWV(女性ボランティア振興協会)が資金提供や運営指導、専門家派遣を行ない、実際のプロジェクト管理及び設備提供はバレテ家族農業学校が担った。

プロジェクトの評価

(1)効率性
資金の投入は予定通り行なわれたが、為替レートの変動(円安ペソ高)により円換算による投入額が、予定より多くなっている。専門家の派遣も予定通り行なわれた。

(2)目標達成度
結論から言うと、この目標はほぼ達成された。根拠は以下の諸点である。
◆ 専用の作業所が完成、稼動することによって、安定した品質の商品を効率的に生産できるようになった。
◆ 各種セミナーを通じて、魚の乱獲による悪影響や資源保護・管理の重要さに気づいた受益者たちが、計画的で、持続可能な漁法を工夫するようになった。

(3)インパクト
全体的に見て、本プロジェクトでは、ネガティブな影響よりも、ポジティブな影響の方が大きい。
ポジティブな影響は以下の通り。
◆ 地域全体に関わる天然資源の有効活用に対する意識向上
◆ タウィリス以外の魚介を材料とした製品の開発促進
◆ 魚介製品に関するトレーニング施設としての作業所の利用
◆ 受益者の収入向上により、いくつかの家庭では子どもを学校に通わせることができ、家族の病気といった
  緊急の出費にも備えることができるようになった。

ネガティブとも言える影響を挙げるとすると、本プロジェクトによって市場におけるタウィリスの需要を拡大させたことである。特にオフシーズンにおいて、生魚の価格が5倍以上にもなっている。

(4)妥当性
本プロジェクトは、対象地(バタンガス州バレテ市)の住民のニーズに非常にマッチしていた。根拠は以下の通り。
◆ 益者の多くは、日々の生計をその日獲れた魚に頼っていたため、収入が低く、不安定であった。
◆ 少しでも収入を増やそうと、無計画に魚を乱獲したり、違法な漁法に頼ったりすることで、却って自然環
  境・生態系に悪影響を与え、将来の漁獲による収入を困難にしていることに気づいていなかった。
◆ タウィリスはタール湖固有種であり、特産品として安定的に生産・出荷できれば、市場価値は高い。

(5)持続性・発展性
本プロジェクトにおいては、先述したように、オイルサーディンの加工技術の研修に加え、経営・品質・資源管理等に関する研修も各種実施しており、プロジェクト参加者が今後、自立的に事業を進めていけるような工夫がなされた。
◆ 本プロジェクトで扱ったタウィリスのオイルサーディンの他、干物や燻製、タウィリス以外の魚のオイルサ
  ーディンなど、様々な新製品の開発に意欲的に取り組み始めた。
◆ 本プロジェクトの成功により、周囲の様々なグループから、魚介類の加工生産に興味が寄せられており、
  本プロジェクトで建設した作業施設が、バレテ州における同種の技術研修の中心として位置づけられるよ
  うになってきた。

教訓・提言等

本プロジェクトはおおむね成功したと言えるが、そのポイントのひとつに、事前調査が挙げられる。
今回、我々はプロジェクト実施にあたって、製品として出荷するタウィリスのオイルサーディンが、どの程度の市場価値を持つものなのか、専門家に依頼して綿密な事前調査を行なった。
多少の費用はかかるものの、信頼できる市場調査を実施したことで、製品が市場で十分通用するという確信を持って事業に取り組むことができた。
 「一村一品運動」のように、特産品をつくることによって地域の活性化、住民の所得向上を目指すプロジェクトの例は多いが、出来上がった製品が市場で売れなければ意味がない。売れる見通しが立てば、プロジェクト参加者の意欲も自ずと引き出される。
もうひとつ、本プロジェクトに特徴的なポイントを挙げるとすれば、環境保護と所得向上を絡めてプロジェクトを設計したことであろう。ただ単に「自然破壊はよくない」「環境を守ろう」と訴えるだけではなく、そうした自然破壊が確実に自分たちの生計手段に影響を及ぼすこと、計画的に地域の資源を管理・使用することで安定した収入につながることなどを理解してもらうことで、着実に環境保護の意識が住民の間に浸透していったのである。