タナウワン手工芸品実務者育成計画

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活動実績

フィリピン バタンガス州 タナウワン 手工芸品実務者育成計画(2004年)

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フィリピン バタンガス州 タナウワン手工芸品実務者育成計画


平成16年3月15日付日本NGO支援無償資金協力贈与契約に基づく 「手工芸品実務者育成計画」が平成17年3月14日をもって完了いたしましたので報告致します。

プロジェクトの実施概要

(1)実施国・費用総額バタンガス.JPG
  実施国 -フィリピン・ルソン島南部 バタンガス州 タナウワン
  費用総額-1,200万円

(2)実施国の現状とプロジェクトの背景
  タナウワンは貧しい農村地域であり、地域の雇用口の大半は工場での労働
  か農業によって占められているものの、不安定な経済情勢、雇用のミスマッ
  チにより、地域住民の雇用・収入は不安定な状況にある。
  常勤の工場労働者の平均収入は月5,000ペソ、農家の平均収入は
  月3,000ペソ(1 ペソ=約2.5 円)。
  同市では家族は平均して6人。5人家族における貧困ラインが月7000ペソで
  あり、それを大きく下回っている。住民は安定した雇用と収入を強く望んでいたのである。

(3)プロジェクトの目的と目標
  目的(上位目標) : 対象地域の住民の所得向上が達成される。
  目標(プロジェクト目標) : プロジェクト終了時にタナウワンのコミュニティにおいて、手工芸品製造のため
  の研修と実働体制が整い、育成された実務者が技能を生かして働いている。
  今回、プロジェクト内容を「手工芸品実務者育成」とした理由は、以下の通り。
  ① 市場のニーズに答え、地域住民の雇用を促進できる。
  ② 地域の資源(人・もの・ネットワーク)を活用できる。

(4)プロジェクト実施体制・活動内容
  -実施体制
   当協会のカウンターパートであるフィリピンの現地NGO、KHFI(Kabalikat sa Hanapbuhay Foundation)と
   協同でプロジェクトを実施した。
   この事業は外務省の日本NGO 支援無償資金協力の援助を受けた。

  -活動内容
   1, 1期生の募集及びトレーニング、センター設備の配置、スタッフの選考・配置、センターシステム・方
    針・手順の制定、システム導入・審査
   2, 市場評価の実施、製品開発、量産開始
   3, 次期訓練生の募集及びトレーニング、卒業生による訓練生の指導
   4, マーケティング、販路開拓
   5, 情報提供、コミュニティ会議、中心グループの形成、2つの協同組合設立・登録
   6, 情報提供・教育キャンペーン、バランガイ行政機関にプロジェクトの支援を要請

プロジェクトの成果

(成果1)
タナウワンに手工芸品実務者育成センターが設立され稼動し始めた。

タナウワン手工芸品実務者育成センター(Tanauann-KH Crafts exelopment Center)は、2004年6月に駐マニ
ラ日本国全権大使を始め、タワウワン市長及びバタンガス州知事代理の臨席のもと、オープンした。
その後、運営スタッフ及び実務者との打合せを頻繁に行いながら、技術・工作機械・工具・道具・備品が導入され、市場ニーズに答え得るセンターとして稼動する体制が整った。

(成果2)
三つ以上の製品ラインが設置された。image008.png

▼木工製品に関しては、トレーセット、カゴセット、三脚台、鍵キャビネットで
 ある。
▼織物に関しては、タナウアン織物として、プレースマット、日差し用ブライ 
 ンド、テーブル掛けの生産を行っている。
▼製品開発は、研修生の受け入れ前に、フィリピンデザインセンターの協力
 を得て進めた。研修が始まってからは、市場コンサルタントのMackay氏及
 び販路開拓を担当したKH多目的共同組合の指導・協力のもとに進めた。

(成果3)
三つ以上の製品の市場開拓が行われ、製造が軌道に乗った。

▼木工製品は、KH多目的共同組合及びKH財団を通じ、Helen Bongga
 (バザール)及び個人向けに販売されている。
▼織物の販売先は、MKJ、Helen Bongga、Balay ni Mariaである。
▼総売上高は613,870ペソ(約120万円)であり、費用を引いた残りは、追加の機械購入、生産基金、研修に
 使用された。

(成果4)
織物・手工芸品製作の訓練を64名が受けた。

▼ 計画段階では58名が研修を受け入れる予定であったが、実際は6名多い総数64名(木工42名、機織22
 名)の研修を完了することができた。

(成果5)
二つの組合が組織され、積極的なリーダーシップ・運営システム・ポリシー・手続規定等を備え、センターの活動と連携し、政府機関に登録された。

研修修了者からなる2つの団体HABI(織工組合)及びSUSI(木工組合)が設立された。それぞれの団体発起人は15名であり、その他の修了者は組合員として登録されている。活動は軌道に乗っており、議事録及び出資金等の管理は適正に行われている。両団体とも労働局(DOLE)に登録完了した。ポリシー、手続、組合員管理、リーダーシップ、運営、資本組入等に関する規定を定めた。設立当初の資本は7,485ペソ。
その後この団体が手がけた木工製品売上13,780ペソより、436ペソが組合員に配分され、689ペソが資本に組み入れられた。従って、現在の資本金は8,174ペソである。

(成果6)
周囲の48のバランガイにこのプロジェクトが認知され、この取り組みに触発され、起業しようというイニシアティブが現れる。

48のバランガイすべてにこのプロジェクトが認知されたために、研修生派遣の申し出や、センター見学が相次いでいる。 Caleというバランガイの責任者は、センターの卒業生の協力の得て、手工芸品による生計向上事業の実施を考えている。

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プロジェクトの評価

(1)効率性
  投入の質・量はほぼ計画通りであった。過去の同種のプロジェクトと比べた場合、投入規模に対し、達成
  された成果は高いパフォーマンスを示した。
  改善点としては、生産現場で使われるTOCなどの生産管理手法の導入をすることで、よりよい投入管理
  が行われる余地があるだろう。

(2)目標達成度
  上記に挙げたプロジェクト目標は結論から言うと、ほぼ達成されたと考える。
  その根拠は以下の2点である。
  ★プロジェクトで設置されたタナウワン手工芸品実務者育成センターが稼動しており、種々の手工芸品
   製造のための研修体制及び実働体制が整った。
  ★センターでは、合計6つ以上の製品ラインが確定し、手工芸品の製造が軌道に乗っている。
   研修を終了した実務者64名のうち、50名(約78%)がセンターで雇用されている。
   (残りのうち9名(約14%)は外部で雇用されている。)

(3)インパクト
  近隣の複数のコミュニティで、プロジェクトの影響により独自のイニシアティブが計画されている。
  センターが設立され、実際に稼動する光景を見た住人にとって、「自分たちにも何かできるのでは」という
  励ましや刺激を受けた模様である。

(4)妥当性
  プロジェクト終了時点においても、ターゲットグループ及び住民にとって、雇用促進は、彼らのニーズに
  合致していると判断する。プロジェクト背景に記述したように、タナウワンの住民は安定した雇用と収入を
  強く望んでいるのである。フィリピン全体においても、貧困解消が最優先課題の一つになっており、貧困
  克服をめざす本事業の妥当性は高いものと判断する。

(5)自立発展性
  研修により育成された実務者は、手工芸品製作の技術を身に付け、9割以上のものがその技術を実際に
  生かすことのできる仕事に就いている。
  また技術面の習熟のみならず、自信を深め、人生に対する積極的な態度を身に付けた。
  大半のプロジェクト参加者は、働くことが単に金銭的対価や自己満足を求めることではなく、社会的使命
  をもって、人々に仕えることであることを発見(再発見)した。
  実務者による組合も設立され、職員及び組合員として働いている。当地、ポリシー、手続き等に関する
  規定等も定められている。センターと共に、コミュニティ開発に資する団体として有用な働きをするだろう。
  マーケティング、原材料買付、生産、労働、品質等に関する管理システムが構築され、それを運用する
  センターのスタッフが自立的に確保できている。

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教育・提言等

(1)プロジェクト・訓練の問題点・課題
  知識と良い習慣の不足から不適切な工具の使い方を一定期間続けていた例があった。
  例えば、木工製品の加工に利用できるテーブルソーが、単に固定丸のこぎりとして使われていたこと。
  工具の電源コードのソケット部が壊れたまま使用されていたことなどである。
  工具の寿命・使用上の安全管理の面から問題があった。これらの問題に対応するために機械工具の
  整備、作業場の清掃、定期的な研修日の設定などを行うのが望ましいだろう。

(2)他のプロジェクトへの教訓・提言
  当協会がこのプロジェクトを実施してから得られた教訓は2つある。

 ▼研修参加者が研修日誌ともいうべき記録をつけることの効果である。
   日誌にその日行った作業や習得した技術、感想などを記し、指導員がコメントを書き加えて返却する。
   これにより書きためた日誌は本人にとってテキストになるだけでなく、指導員との密なコミュニケーション
   も促し、指導が継続的に生かされていく。

 ▼二つ目の教訓は、木工品製作コース参加者の場合、自分の基本工具セットをコース修了時に所有でき
   ることによるインセンティブ向上の効果である。プロジェクトの研修コース開始時に基本工具セット
   (鋸、鉋、のみ、金槌、きり、スコヤ、スケール、小刀、釘抜きの9点セット)をそれぞれ与え、
   各々の責任において管理・整備を行いながら使用していく。
   これにより道具に対する維持・管理意識が生まれることはもちろん、技術習熟への向上心も生まれる。
   またこの基本セットさえ持っていれば基礎的な作業はできることから、研修修了者の自立発展にも
   寄与することができるのである。